2005/05/13, , 日経産業新聞
カタログ通販会社シムリーのOL向け通販誌「イマージュ」で大人気のブラジャーがある。商品名は「モテブラ」。「恋に効くブラ」というキャッチコピーと商品仕様が女性心理をとらえ、今年2月に発売してわずか10日で6カ月分の予定枚数を販売した。実はこのモテブラを商品企画したのはプロではなく、若い女性読者たちのチームだった。販売不振にあえいでいたイマージュに起死回生の大ヒットをもたらした、名付けて「OL幸せプロジェクト」とは。
イマージュは20―27歳のOLを対象にしたシムリーの主力カタログ通販誌。「ちょっとおしゃれ、ちょっとかわいい」がコンセプトで、競合他誌と比べると下着にしてもレース、リボンをあしらった凝ったデザインが多い。 「モテブラ」は2月4日の発売で、同誌最大のヒット商品となった。1000セット売れれば合格と言われる通販ブラジャー市場で5月上旬までに15万枚を売り上げている。
「なんとか落ち込みをくい止めなければ」。イマージュは1990年代、人気俳優や外国人モデルを起用した広告で認知度を高めたが、ここ数年低迷が続いていた。主力誌の苦戦でシムリーの売上高も95年2月期の410億3500万円(単独)が03年2月期には218億4600万円(同)へと半減。05年2月期は8億900万円の最終赤字に陥った。
「不振の原因は看板商品がないからではないか」。2年前、顧客サービス戦略本部マーケティング室の宮沢正史室長はこんな仮説を立てて、巻き返し策を練っていた。女性誌をパラパラとめくりながら商品アイデアを模索していると目に留まったのが「モテ服」という言葉。「モテるブラジャーなら名前だけで女性が飛びつきそうだ。でも一体どんな商品にすればいいか……」。
その答えを求めるため、消費者の生の声を集めることを考えた。2003年3月、読者からモニターを募り「OL幸せプロジェクト」を発足。20代の女性モニターに仕事帰りに集まってもらい、毎回十数人で理想のモテブラ談議が始まった。
「大きくて自信がつくと恋愛にも積極的になれそう」「痛みや不快感で身体がストレスを感じると、表情も暗くなり恋が遠ざかってしまう」「色は出会い運を高めてくれるピンクがいいのでは」――ブラジャー研究家の青山まり氏も交えた会議では様々な意見が出た。宮沢室長はインターネットで男性の意識も同時に調査。男性が好む色は、形は?――。合計9497人の意見を参考に出来上がったのがモテブラだ。
色はピンク、花柄のレースが浮き出る模様。ボリュームを出すためパッドは二重にし、ワイヤーは柔らかいクッションでくるみ痛みを和らげる仕様にした。カップの裏側には肌がすべすべになるというスクワラン加工を施した。ショーツ2枚と香水付きで価格は4095円(A、B、Cカップ)と4410円(D、Eカップ)。「恋に効くブラ」をうたい文句に展開したところ、女性誌や口コミで一気に火が付いた。
しかし、モテブラは改革の一歩にすぎない。仕掛け人の宮沢室長は以前、大手下着メーカーに在籍していたことがある。扱う商品は同じでも「消費者と対面する店頭販売と違い、通販はなぜ売れないのかがつかみにくい」。消費者との温度差を縮めていくため、OL幸せプロジェクトを他の商品の品質見直しにも活用し始めた。
4月21日、シムリー東京本社の会議室。宮沢室長は集まった23―28歳の女性7人に「厳しい意見をお願いします」と頭を下げた。その日のテーマは「品質と値段のバランス」。
室内には白いシャツ、黒いジャケット、カットソーが10枚ずつ、ずらりと並ぶ。どの服もブランドラベルははがされ、A―Jのアルファベットと素材だけを記したタグが付いている。それぞれにシムリー製品が1点ずつ入っていて、参加者に欲しい商品を各分野1枚選んでもらい、その理由と全品の妥当な値段を示してもらう趣向だ。
7人が実際に手にとり、じっくり比べた結果、同社の白いTシャツを欲しいと答えた人は皆無だった。理由は「薄く夏は下着が透けそう」「襟ぐりが開きすぎ」「安っぽい」など。一方で厚手の素材の他社のTシャツに人気が集中した。
最近はこの手のTシャツを職場で着る人も増えており、比較的しっかりした素材が選ばれたようだ。商品企画した商品部アウター課の村井勲課長によると、Tシャツの値段は素材の厚みで決まるものではない。シムリー製も原材料費を絞ったわけでなく肌触りの良さを重視し薄手素材を、鎖骨が映えるよう襟ぐりを大きくしたという。
「今まで消費者の求めているデザインは何か想像の域で企画していた。生の声を聞きズレがあるとわかった」(村井氏)。OL幸せプロジェクトはほかにも「伝票の使いやすさ」「インターネットの見やすさ」など毎回複数のテーマでモニターの声を集めている。
シムリーはイマージュてこ入れで06年2月期の連結売上高を前期比28%増の240億円と見込む。モテブラの大ヒットという成功体験を商品・サービス全体の品質改善や販売増へと広げていきたい考えだ。